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漢方屋までののっぺりとした路を走っていると、ちょいとした賑わいを見つけた。
文楽堂と書かれた古びた平屋の小劇場だった。明日、素人たちが上演するようだ。七夕色のポスターが何枚も貼られている。目を細めた。”いちじく事件”という名の戯曲らしい。
見覚えのある女が、文楽堂の砂利敷きの駐車場に立っていた。きつく髪を巻いて派手に化粧をしたその女は田頭アカネだった。泣いている。
夏目は車を路肩に停め、窓からアカネの顔色を窺った。
「どうしたんです?」
するとアカネはこっちを見た。狸と子犬のハイブリッドのような表情で鼻を染め、すがるように言った。
「川堂が……、ひどい劇をやっているのよ」
「ひどい劇?」
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