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   すると女は川堂に応えず、ぎいと顎をあげ、いきなりふり返った。舞台の川堂はびっくりしたように、あれ、と言った。そうじゃないよ、君はこっちに上がってこなきゃいけないんだ。そういうシナリオなんだよ、と。  しかし女は訊かない。  男は呆然と立ち竦んだ。  スポットライトを浴びる威風堂々とした正義の自由機長。そのかれは全方位端正な容姿で、なかなかの色気があり、珍味食のようにやみつきにさせる雰囲気がある。  その彼が、恥もせず、我にかえりもせず、身辺の知人を可能なかぎりに掻きあつめ、必死に彼女への強い愛を訴えている。  それなのに、女はまるで居やしない存在であるかのように応えない。川堂には、ただ後頭部を向けるのみ。  彼女がその両目で見ているのは、こっちだ。  閃光に照らし出されたヘイズル色の瞳を、じりっと震わせた。        
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