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   夏目は、思わず幽霊女の腕を引き寄せようと、手をのばす。  するとアカネは目をつり上げて、微笑みをばらまき、ちからを弛ませた。  どういうわけか不穏な隈取りが瞬時に消えて、あのふわふわとした表情に戻っていった。  夏目にかるく会釈をし、幽霊女のほうにもわらいかけ、彼女の肩を軽くこづくようにした。  そしてあちらへ歩いていった。 「……」  夏目がほっと脱力していると、アカネは前の席に腰掛け、おとなしく川堂たちの舞台を見あげていた。しかし彼らがアカネに抗議をするように、意地で演技を中止していたので、腹を立てるように立ちあがって外へ出ていった。  ──川堂は、飄々とたたずむその幽霊女に云った。   「君、本番ではちゃんとこっちへ来ておくれよね。お願いだからね。──そうじゃないと僕たちの劇がね……」  うなずいたのかうなずいていないのか。彼女はれっきとした幽霊らしく、感情の感触を匂わせないことで返答の変わりにする。  そしてひんやりと体温を消して、そこから離れた。  
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