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夏目は、女の、なにかいい匂い、──夏に咲く花のような香りに一瞬ぼうっとした。
が、異変に気づいてたちまちふり返った。
彼女の肩に、小刀がぐさりと突き立てられていたのだ。
「あッ……、なんてこと!」
叫んだのは川堂のほうだった。
「よう香さん、き、きみ、ナイフが刺さっているよ」
幽霊女は、舞台に居る川堂をふり返った。
川堂は動揺しながら、また言った。
「刺さっちゃっているんだよ」
夏目は滅茶苦茶に目を吊りあげ、叫んだ。
「刺されたのだ!」
しかし、”よう香”と呼ばれた女は、瞳をゆらゆら揺らめかせるだけだった。
無色無音で三歩あるき、立ち止まり、顔面蒼白及び棒立ち状態の川堂に告げた。
「さ、よ、な、ら」
それから、ひらりと表へ出た──
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