31/193

53人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
   そんな風に無茶をして車道を横切ろうとする女を、しゃにむに取っつかまえて訊いた。 「それ」  刺さったナイフを指さす。  すると、 「これ?」  と、うすく頬笑む。  夏目の瞳をまたじわじわ眺めるようにしたので、すべて知られているような感覚を覚える。通じあった、とすら信じて痺れる。  しかし、女のほうは途端その目をひんやりとさせる。通わせられそうで、通わせられない。それは駆け引きなどではない。もともと死んでいるからだ。根っこの性情が生者と異なり、”白い”のだ。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加