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砂利のはげた一角、斜めにささった電柱の横に、アカネがどんより立っている。
彼女は沈鬱な眼光を放ちつつ何か呟いた。夏目は反射的に目を逸らす。
だが相手は風格を湛えた動きで、渦を描いてだんだんに歩き寄り、すっかりそばに立ち、
「あたしは自分がいや」
と、言った。
「どうしてなのかしら。愛があたしを狂わせる」
とくちを噛む。
そして、そっと夏目の胸板に顔をうずめる。化粧混じりの涙を白いシャツにくっ付ける。それから顔をあげ、美青年めいた首筋をうっとり見詰める。
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