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   夏目はそんなアカネを直ぐに遠ざけた。  そして血走った眼で”よう香”を探した。  女は電柱のかげに隠れるように立っていた。  カーキー色のズボンを皺だらけにし、ポケットからゴールデンバットの小さな箱を取り、萎れた煙草を男のように銜えた。夏目は想った。彼女はたった一ヶ月しか生きられなかったのだ。ちいさな血潮、やわらかいうぶ声、母親の魂をあたためるためのふうわりとした指と髪。とくとくと高鳴る鼓動に高潔なこころ。それらはたった一ヶ月だけ生かされ、それからもっとも愛する者に奪われた。この美しい地上にて、そうされた。  しかし彼女は、母親から、そうされることをわかって、そこへやって来た──  そのなんの飾りも要らないひしひしとした気高い野生。その磨き抜かれた女の魂が、夏目の胸を圧倒した。 「の、乗せていきますよ」  
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