ルリボシの夏夜

　
　と声をかけると、彼女は煙草を持っているほうの指で額を掻いた。何か思いあぐねたあと、アカネのほうに近寄り、さっき抜いた小刀を差し出した。

　夏目からちょっと離れた場所で隠れるようにうつむいていたアカネは、おずおずと小刀を受け取る。
　そして、女が淡々としているのを見ていちじるしく歯軋りを始める。

　堪えられず声を絞り出した。

「アナタ幽霊だから死ねないんでしょう？」

　侮蔑と哀れみを浮かべていた。

　ちょうど夕暮れ時だったから、笠つき街灯がチカチカリとアカネの頭上で瞬いた。アカネは思い出したように文楽堂のほうをふり返り、なぜか目に勝ち誇った光を湛えた。