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夏目は息を吐き、幽霊女の腕を引っ張って、ボロボロの軽自動車のドアを開けてやった。女はすなおに膝を曲げて座った。
自分は運転席に座り、横に居る彼女の体温に耳をそばだてた。不思議だった。幽霊なのに、不思議だ、と呟いては顔を赤らめた。
傷口を調べたくなって女の肩に触れた。そこには血は流れておらず、ただただ汗ばんでいたから、雷鳴に似た衝撃が全身を襲った。
夏目は自分がこわくなって腕を引っこめた。
エンジンをかけながら腰を屈めて訊いた。
「僕のこと、知っているんですか」
だが、女は無言で流れる景色を見るだけだ。何も応えない。
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