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   仕事でさまざまな家に漢方薬を配達しているうち、この旧菓子箱というか、廃魔界というか、わりあいに地味なくせに何かおかしい町裏での事件を、もと住民だった年寄りどもに聞かされたのである。  ──この屋敷で、母親が生まれたばかり、ほんの生後1ヶ月ほどの赤子の首を締め、じぶんも命を絶った──  それを知った時には、心が痛み、激痛が脛(すね)に走るほどだった。  母親がみどり児と心中をした理由は定かではないという。  自身にもにっちもさっちもいかない煩いがあったからだとか、旦那に難があったからだとか、あるいはありがちなカネの不足なのだとか、そんなもやもやとした臆測が町民たちの間にながれたが、なにしろ遺書もなく、肉親もなく、情報も無い。
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