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と、痛いほどなめらかで透き通った視線に気づき、そちらを見やる。ふたつの瞳は青みがかった不思議な色に変わっている。
夏目は声を震わせた。
「よう香さん?」
相手は、顎をひき、呼吸をしていないくちでふっくら語りかけようとする。
しかし何も言わない。
「傷の手当てをしたいのです」
夏目が頼むと首をかしげる。刻まれた青黒い死の首輪に、灯り始めた星の破片が溜まる。
夏目はまだ頼む。
「どうか手当てをさせてください」
相手は訊いた。
「何の?」
「傷の」
──いつの?
声は聞こえなかった。ただそんな風に胸に伝わった。
夏目は噛み締めた。ちいさな交差点で停止する。赤信号が頭上で点滅している。
自分でハンドルを握る自分の手首を掴んだ。
兎に角、そのひとの殺された体をあたためたいと思った。
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