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  「ルリ色カミキリムシの模様」  そう言ったのは、助手席に座っている、よう香だった。  たしかに光の綾(あや)のせいで、カミキリムシの背紋様のうえを走行している気分になる。  ──夏目が横顔をちらりと見ると、彼女はふたたび訊いた。 「ねえ、……憎むって?」  そのくち端から、血がたらりと垂れた。女は微かに笑った。  夏目はぎょッと眼を剥いた。血は顎まで、つ、つ、つ、とながれて、皺くちゃのカーキー色のズボンにぽたりぽたり落ちてゆく。  膝頭ががくっと震えた。ブレーキを底まできつく踏み、赤信号で停止する。  しかし──  彼女の顔をよくよく眺めると、それは血ではなく無色無音の水雫であることがわかった。 「泣いているんですか?」  と、尋ねるが瞳は濡れてはいない。  
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