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   すると女は夏目を見つめた。窓に片方の肘を乗せた。  ズボンのポケットからゴールデンバッドの煙草を取って、飄々とくわえ、火をつけて、頭の天辺を指さし、 「ここから泣くの」  と言った。  夏目は思わず呼吸(いき)を吹いた。  どうしてそんな処から……、と訊いてみたかったが、相手は眉尻を下げて、首をふる。どういう仕組みか判然としないが兎に角そういうものらしい。  ──路なりに進むうち、いちじくの香りを感じた。  細くあけた運転席側の窓の向こうから、果実のふくらみが流れ込んでくる。  フロントガラスの向こうに、赤いちんまりとした看板を下げる煙草屋が見え始めた。右手には壁の矧がれたぎざぎざの木造和菓子屋。両側には、すっ頓狂で、建造物にあるべき法則をまるで無視の民家群。  幽霊女の棲み家である心中屋敷は、もうすぐだ。  
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