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   夏目は、その事件のことが気になって仕方なかった。  過去の事件であったとしても、無関係であったとしても、何かほうっておけない。  どうにもできなくても、赤子のことを思うと向かってしまうのだ。  ──母子心中事件のあったこの場所に。  そこいらあたりは、質屋や餅菓子店や名刺屋のあるふるい界隈だった。路の配置がすっとんきょうで、町並み全体は飴細工に似ていた。路地と路地の間に立つ家も、三角だったり、菱形だったり、増築狂だったりと、兎に角法則を無視してひどいものだった。
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