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「待ってください!」
相手はふり返った。
「あなたの願いは何でしょうか。僕は、叶えてあげられるかもしれない」
だって虫に頼めば……、と夏目は脳裏のなかでボンネットの上を長閑(のどか)に散歩するカミキリムシの姿を思い返した。
──よう香はぐるりと藍色の宇宙を眺めまわしたあと、
「あたし、憎んでみたい」
と言った。
「人間のように」
と。
夏目も戸惑いながらも、頷く。
「そうすれば」
たがいにおなじ形に口を開いていた。
「もう一度、生まれなおすことが、できるのかもしれない」
相手は、もげかかったドアノヴに手を置いて、頷いた。
そしてノブを回すことなどせずに、幽霊らしくそのままドアの向こうにすっと体を埋(うず)め、屋敷のなかに入っていった。
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