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   頼みかけて、じりじりとした電気が擦れる気配に目をあげた。  夏目は樹木と蔦たちの向こうの、まだ奥のほうへ進んだ。  最奥の部屋には、柱が一本立っていた。うねる木目模様は傷つきくすんでいた。母親のものだろうか、体温が染みているような破れたブラウスがだらり棚から垂れていた。真鍮の鍵がついた窓のそばには、古い箪笥が置かれており、家具の置かれた場所の畳は撓(たわ)んでいて、そばに豆電球と鼈甲の手鏡が転がっていた。  どす蒼いのに、空気はなぜか、すッと澄んでいる。  壁のほうで、何か、白いのがちらちら光っている。トリニトロンテレビだった。  わはは、はははははは。  テレビから笑い声が漏れている。 「……」  その正面に、女が座っていた。    
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