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   女の後ろ姿をしみじみ見る。  上衣は、袖無しの白いシュミーズ姿だった。綿の生地がつやのある肩に、はりついている。乾いた夜のなかでうっすら汗をかいている。  自分はと云えば、情けなく痩せた体でのっぽの標榜のように立って、ただ彼女を見おろしている。体はじっと静止しているが、心は彼女という魂にすがりつくようにしている。  どうしてしまったのか。人間の女にも抱いたことの無い強い想い。殆ど無意識にここへ忍び込んでしまった。いったい、自分は何をしているのか。  ──逃げ出したくなった。その一方、胸のなかで、虫に頼んでいた。  虫よ、僕は彼女の顔を見たい。  少しでいい。どうか彼女にふり返ってほしい。  すると──  女は月明かりのせいで白っぽく見える顔を向けた。  そして、頭の頂から涙をたらした。    
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