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   彼はペンを走らせた。 「その赤ちゃんがそうなるなんて、なかったことにしてください。おねがいします。僕はその子の運命を変えてほしいのです。どうかあかるく生きのびて、やさしい大人になって、膝を曲げながらテレビなどを観ているようなふつうの暮らしを与えてください」  そして差出人に夏目塔ノ介と書いて住所も記し、送り先には、 「虫へ」  と書いた。  独りぶつぶつ言いながら、ドアを開けて夜の街路を歩いた。心中屋敷の野放図な生け垣に喰われるように、ふるいポストが倒れていた。 「青ポスト?」  珍しい色だった。昭和四十年代くらいの弁当箱に似ていて、ぶきっちょな哀愁を放っている。もう使われていないのだろう。夏目はしゃがんで触れた。すると生け垣のほうからカミキリムシが現れ、触覚を揺さぶった。合図に見えた。  頷き、倒れた青ポストに、その往復葉書を投函した。  
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