遺愛のダイアリー

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 光稀がそう言いながら背中をそっと撫でてくれるが、もはや逆効果だ。一年ぶりに彼の温もりに触れて、今まで我慢していた涙がとめどなく溢れていく。 「……ねぇ光稀。どうしてさっき止めたの?」 「あれ以上進んだら、お前が現実に戻れなくなると思ったから。注意書きに従っただけ」  涙声で問うと、私を腕に収めたまま彼は答えた。 「それでも構わない。私はアンタに気持ちを伝えられなかったことを後悔しているし、アンタから好きの一言も聞けなかったことが悔しいの。だから、それを叶えられるならもう戻れなくたっていい」 「ばーか、俺がお前に生きててほしいんだよ」  駄々をこねる子供みたいに言えば、光稀は私をそっと解放していきなりデコピンをお見舞いしてくる。痛みに悶絶しながら彼を見れば、少しだけ切なげに笑っていた。 「まだ高校生だし、やりたいことたくさんあんだろ?いつもみたいにバカやっとけ」 「……光稀が居ないなら、バカやっても楽しくない」 「一緒にバカやれるヤツなんてその辺に居るだろ。俺にばっか執着してないでそろそろ他の奴等とも仲良くしとけ」 「……」 「大丈夫だって。お前なら出来るだろ」  随分とらしくないことを言うものだ。自分のことは忘れてくれと言われているような気がして、私は何も言い返せなかった。確かに私は、光稀が死んでから周囲と一切かかわることなく一人で過ごしている。心配してくれるクラスメイトたちに、何も反応を返さなかった。そのことを彼はどこかで見ていて怒っていたのかもしれない。 「直にこの世界も消える。だから、お前が前を向くってちゃんと宣言してほしい。馬鹿なお前に出来るかどうかわからねぇけどな」  そう言って光稀は、いつものように悪戯に笑う。涙が一瞬引っ込んで、私は彼を見上げた。
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