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「……日記」
「え?」
「帰ったら、俺の日記見てみろよ。きっと面白いもんが見れるぜ」
光稀は楽しそうに目を細めた。
生前、光稀がマメに付けていた日記を思い出す。そういえば、彼は全てをあの日記帳に書き留めていた。
「あれを見返せば、いつだって俺に会えるさ。あんな本が無くたってね」
「……うん」
あぁ、別れがすぐそこにある。それを改めて彼の言葉から思い知り、一度止まった涙が再び零れ始めた。
「……じゃあな、伊鞠」
「……」
「来年から大学生だろ?頑張れよ」
「……うん」
くしゃりと私の頭を撫でると、光稀は私から一歩ずつ後ずさる。もう半壊したあの日の世界は、光稀を遠い所へと誘っているように見えた。
「あぁそうだ、伊鞠」
足元が透けた光稀が、私の名前を呼んだ。
「日記はちゃんと最後まで読むもんだからな。約束だぞ?」
「どういうこと?ねぇ、光稀――」
その問いかけは、彼に届くことはなかった。滅多に見せない優しい微笑と共に、彼は純白の世界に溶けていった。
伸ばした私の手は、何か温かいものに引かれていく。視界を雪のような白が覆いつくし、私をどこかへと連れ去っていく。
幸せなあの日の光景は、もうどこにも見えなかった。
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