遺愛のダイアリー

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 思えば、単なる偶然ではなかったのかもしれない。  一年前に亡くなった彼との思い出の場所。私たちが出会った学校の図書室。生徒のほとんどが下校した放課後。そして、見慣れた純文学の本棚の前に立つ私。  全てが、彼と出会ったあの日と同じだった。  今日で彼が亡くなって一年が経つ。  一年前――高校二年の冬のこと。彼が事故により突然この世を去った。  周囲からひやかされるくらい、私たちは仲が良かったと思う。実際、付き合う手前までいっていたし。だから、彼の死が告げられた時は、人目も気にせずみっともないくらい泣き叫んだのだ。それも今や、遠い昔みたいに感じるようになってしまったのだけれど。  そのせいなのか、私は彼の存在を遠いものにしたくなくて、何かに導かれるようにこの図書室にやってきた。サボり魔の図書委員は案の定部屋におらず、冬休み目前のこの図書室に他に人がいるわけもなかった。  鞄をその辺の机の上に放って、広い図書室内のある場所に私の足は向かう。それが、純文学の本ばかりが並ぶ棚だ。二人して、似合わないなって笑い合ったのをまだ憶えている。  本を読む気分ではなかったけれど、こうすることでなんだか彼に会えそうな気がした。あるいは、ただ感傷に浸りたかっただけなのかもしれない。ぼんやりとした意識のまま、私は並ぶ本の背表紙に指を滑らせた。 「……あれ」  その時、背表紙に何も書かれていない一冊の本を見つけた。小ぶりで、少しだけ傷んでいるようにも見える。本と言うよりは、手帳みたいだ。別にそれに魅力を感じたわけじゃない。だけど私は、気がついたらその本を手に取っていた。
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