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「……死者と会える本」
本の表紙には、ただ一言そう書かれていた。白い表紙に青色の文字。随分と簡素で、味気ないものだった。だけどそれが逆に私の目を惹いたのかもしれない。とてもワクワクする表紙とは言えないが、私は何故か試しに一ページ目を開いていた。
――これは、死者と一度だけ会える本。あなたが最も会いたい人物を思い浮かべて次のページをめくるだけ。でもチャンスは一度だけ。一度捲ったら、それで終わり。
黒の明朝体でそう書かれていた。
私は首を傾げた。これは、所謂物語のプロローグか何かなのだろうか。それとも、本当に死者と会える本なのか。まだ次のページを見ていないから分からないが、なんとなくこの先に物語の世界は広がっていないような気がした。
文字を追って下を見ていけば、さらに小さな文字で一言だけ書かれている。
『※幸せな記憶に溺れすぎないように』
ますますこの本がよく分からなくなってきた。
しかし、私は心のどこかで期待していたのだ。この本が、本当に死者と会える本であるということを。
もしもこれが本当ならば、私は彼に会えるのだろうか。もう二度と会うことを許されなかった彼に。
ならば、迷う必要はない。彼に会えるのならば、私は何だってする。まだ彼から、好きの一言すら聞けていないのだ。いいところまでいったくせに、アイツは結局何も言わずに旅立ってしまった。これはきっと、私に与えられたチャンスだ。
私は躊躇することなく次のページを捲る。もちろん、大好きだった彼を思い浮かべながら。
不思議な気分だ。ページを捲った瞬間、意識がぼんやりとしてくる。急激な寒さが体を襲ったのに、何故か心地よい。どこからか、賑やかな声が聞こえてきたような気がする。
懐かしい気分に身を委ねながら、私はそこで意識を手放した。
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