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これはあの日の記憶の再現だ。私はなんとなくあの日のことを思い出す。多少異なる部分はあるが、周囲の風景や会話のテンポが酷似している。あの本に書かれていたことは、どうやら本当らしい。神様が私に起こした奇跡だ。きっとこういうのは、長くはもたない。だから、今はこの僅かな幸せを噛みしめていたかった。
「んで、何話すんだよ。今日変だし、何かあったのか?」
「あぁ、まぁいろいろあってね……」
「お前みたいなアホでも悩みとかあるんだな」
「あるわ馬鹿」
光稀はからかうようにケタケタと笑っていた。そんな彼の腹を肘で突き、私は続ける。
「……ほら、なんとなくアンタとゆっくり話したかったんだよ」
「はぁ?」
「人っていつ死ぬか分からないじゃない?だから、今のうちに話せることは話しておきたいなぁって」
寒いのに意地を張ってまで履いてきたスカートの裾をきゅっと握り、私は俯く。そんな私を、光稀はきっと怪訝そうに見つめているに違いない。
「ねぇ光稀。私さ、アンタに言いたいことあるんだよね」
「なんだよ、改まって」
「聞いてくれる?」
「……内容による」
「まぁ、光稀にとっても悪い話ではないんじゃない?」
「……何か急に寒気してきた」
「ちょっと何それ!」
わざとらしく腕を擦りながら、光稀が引きつった顔をする。眉を思い切り吊り上げて怒鳴れば、光稀は愉快そうに笑った。
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