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そもそも、こんな会話をあの日にした覚えはない。当たり前だ。あの本は、光稀が死んだ後に私が偶然発見したものなんだから。
「……はぁ、やっぱお前は馬鹿だよ」
呆れたようにそう吐きだし、光稀は立ち上がった。
そこで私は気がついた。
世界の時が止まっている。色とりどりに点滅していたイルミネーションも、街をいく人々も、舞い散る雪も、全てが静止している。動いているのは、私と彼だけ。
これじゃあまるで、二人きりの世界だ。
「光稀、なんで……どういうこと……?」
「なんでって、お前が俺に会いたいって願ったんだろ?だから、会いに来たってわけ」
「だってこれ、ただの記憶の再生じゃ……?」
「そんなこと誰も言ってねぇだろ。まぁ、確かにあの日と全く同じだけど、俺だけは別。あぁ、安心しろ。別に本が生み出した幻影とかじゃない。正真正銘、本物の俺だ」
光稀は得意げな顔をして自身を指差した。てっきり、私が幸せだと感じていた記憶を本が見せているものだとばかり思っていた。
目の前に居るのは、本物の光稀。けして記憶の再現や、幻なんかじゃない。
そう思った瞬間、私の視界は急速に滲んでいった。それを誤魔化すように、私は思い切り光稀に抱き着いた。
「うおっ!な、なんだよ伊鞠……」
「……会いたかった、ずっと」
たったそれだけを告げると、光稀は何も言わずに頭を撫でてくれた。こんな時ばかり優しいとかずるい。堰を切って溢れ始めた涙は止まらなかった。
「なんで死んじゃったの……?来年も一緒に居ようって言ったばっかだったじゃん……!」
「仕方ねぇだろ事故なんだから。今から事故りまーすって事故るヤツがどこに居るんだよ」
「そうだけどさぁ~……!」
「あーもう泣くな。調子狂う」
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