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「…………ママ、ママ、もうすぐ着くよ、起きて」
「ん、んんっ…えっ 」
「もう、ママは乗り物に乗るとすぐ寝ちゃうよね」
電車の心地よい揺れと、ちょうどいい空調のせいで寝てしまったらしい。
「あっ、ママ見て見て ! うわぁ…きれい。めっちゃ咲いてるね」
「ほんとね、あれは蓮華草の花だよ、見たことなかったっけ? 」
車窓からの風景。
それは、田んぼ一面に広がる紅紫色の蓮華草。
一瞬にして過ぎ去った懐かしくも、少し切ない思い出。
「お婆ちゃん、待ってるだろうね… 足、痛いのに私達が行く時はいつも家の外に出て立って待ってるもんね」
今年、70歳になる母の誕生祝いと、娘の高校受験合格の報告に訪れる実家。
今は、ガタガタの畦道は舗装され、田んぼは無くなり、そこには住宅が建っている。
「あ、やっぱり外に出て待ってるよ…おばぁーちゃーん !! 」
駆け出す娘の後ろ姿。
振り返り私を見る。
母の優しい笑顔。
「美希、おかえり」
「ただいま…お母さん」
幼い頃の私がいる、蓮華草の咲く田んぼが見えた気がした。
「ねぇ、お母さん…覚えてる?……」
終わり
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