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私は今公園のベンチにいる。
「ここで待ってて」と彼に言われたからだ。
彼はいつも忙しそうで、私は待たされてばかりだ。
特に最近は仕事が上手くいっていないらしく、
いつも以上に忙しそうだ。
最近、私の仕事は彼を待つ事なのではないかと思う。
もっと構って欲しいけれど、そんなワガママは言わない。
いつも大人しく待っているのだ。
彼を困らせたくはないから。
何より、彼が戻って来た時の喜びを
しっかりと感じたいから。
そんな事を考えていると、彼の足音が近づいて来た。
いつも待たされてばかりいる私は、
彼の足音を聞き分けられるようになってしまった。
足音のする方を向くと、「おまたせ」と言って彼が近づいて来る。
いつもは笑顔を向けてくれるのに、
今日の彼には笑顔がない。
仕事が上手くいかなくなってからは、
ずっと笑顔を見せてくれないのだ。
私の前まで来ると、彼はいつものように私の頭を撫でてくれる。
大人しく待っていた私へのご褒美だ。
これがあるから、私は待つ事をやめられない。
私は彼を慰めるように彼の顔を舐める。
彼はくすぐったそうにしながらも、
少しだけ笑顔になる。
そうして少し戯れた後、彼が言う。
「帰ろうか、ポチ。」
その顔には少しだけ笑顔が戻っていた。
そうだ、これが私の仕事だ、
と私は思った。
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