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――純がいなくなり、二週間。
祐士は病院を退院した。リハビリも順調で、松葉杖なしで歩けるようになっていた。
数ヶ月後、休日に私達は3人でマンション近くの公園に出かけた。
「純は……今頃何してるのかな」
祐士は立ち止まり空を見上げ、ポツリと呟いた。
「そうね……」
私も立ち止まり空を見上げた。
青空を白い雲がふわふわと気持ちよさそうに流れている。
「俺達……夢を見てたのかな?そんなことないよな?俺は病院で純と話をしたんだ。里央もそうだろう。あれは……神様がくれた奇跡なんだよ。なあ里央。俺、里央と渚のこと……大切に思ってるから……」
祐士の突然の告白に、私は驚きを隠せない。
何度も何度も瞬きをし、祐士を見つめた。
「私は……純を……」
「わかってる。俺、約束したんだよ……純と……」
「約束……?」
「ああ……。男同士の秘密の約束」
祐士は青空を見上げ、晴れ晴れとした表情でそう語った。
男同士の秘密の約束?
それが何だったのか、私にはわからない。
「おちびちゃん、おいで。久しぶりにお兄ちゃんが肩車してやるよ」
「わーい!やったぁ!」
「祐士!?足はもう大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。回復力早くてさ、担当医がびっくりしてた。これも奇跡かな」
祐士は笑いながら渚を肩車し、公園の芝生の上をゆっくりと歩く。私はちくわのリードを持ち、祐士の隣を歩いた。
ポカポカとした休日の昼下がり。
広々とした公園で走り回るちくわにリードを引っ張られていると、祐士がさり気なく私に右手を差し出した。
少し驚いたけれど、渚に「おててつないで」と促され、祐士の手にそっと掌を重ねた。
純と同じぬくもりを感じ……。
大きな手のぬくもりに、心が安らいだ。
「あっ!おじいちゃんだ!」
突然、渚が叫んだ。
「えっ……?おじいちゃん?」
周辺を見渡したが、家族連れやカップルの姿ばかりで、おじいさんはどこにも居なかった。
「渚?おじいちゃんはどこにいるの?」
「しろいおひげのおじいちゃんだよ。パパのおともだちなの」
渚は小さな指で、前方の芝生を指さした。
目を凝らして見ていると、芝生の中からピョンピョンと1匹のカエルが跳び出した。
『よっ……、おちびちゃん……。幸せになるんじゃよ。……ケロケロッケロケロッ』
~THE END~
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