【1】一目惚れ天使

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【乃々香side】  雲の上の生活は毎日が退屈。  天界の住人は、プライバシー重視のために単身者にはワンルームマンション、妻帯者には一戸建ての家が与えられる。勿論家賃は不要。雲の上に建つ、雲の家だから。  天界の住人は全員同じ白い服を着て、世帯数に応じた同じ住居スペースを与えられる。住人同士の結婚はタブーだが、下界で結ばれていた者は、その仲を引き裂いたりはしない。  住人は飲食の必要もなく、即ち排泄もしない。睡眠の必要もなく、病気や怪我をする心配もない。  テレビもラジオも、ブティックもコンビニも天界にはない。あるのは(いろとりどり)の美しい花と、青い絵の具で塗られた広大な空。  空の色は天界の住人が塗っている。  1日の空色を決めるのは大神様。  空は巨大なキャンパスだ。  平和な楽園で、みんなはじっと地上界に生まれ変われる時を待っている。  天使となった私には特別な任務がある。天使は地上界で亡くなった人を霊界に導く大切な仕事があり、霊界で天国と地獄に分別され、善人は天界(天国)へと導かれる。  即ち、天使は神様と一緒に地上界に降りることが許されている選ばれし者達なのだ。  ――こっそり、降りちゃおうかな……。  天界には神様が沢山いて、その頂点には大神様が君臨する。神様ごとに天使のグループは分かれていて、私の属する激カワ天使は頭の禿げた神様のメンバーだ。  地上界で喩えるなら、会社の社長が大神様で、神様は各部署の部長、天使は平社員である。私は神様にスカウトされたラッキーガールだ。  ちょっとくらい、天界を抜け出してもバレないよね?  だって神様は、みんなお爺ちゃんだから。  ◇  ――下界時刻午後10時、雲の上はもうシーンと静まり返っている。  私は部屋を抜け出し、こっそり雲の隙間から下界を覗き込んだ。  大丈夫かな……。  私はまだ……下界に降りた事ないんだよね。まだ激カワ天使見習い中、天使資格試験になかなか合格出来なくて、初仕事はしていない。容姿は激カワだが、筆記試験や実技試験は苦手だ。  ――高所恐怖症の私。  ちょっとコワイな。  雲から飛び降りたらいいのかな。  こんな高い所から飛び降りて、私……死なないのかな?  あっ、もう死んでるんだから何をしても大丈夫だよね?
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