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彼が震える手をポケットに突っ込む。不良が彼の前髪をムンズと掴み、厳つい顔を近付け鬼の形相で凄んだ。
あんたは魔界のサタンかっつーの。
ていうか、サタンの方がまだ良識ある。
「明日まで待ってやるよ。明日の夜10時、ここに5万持ってきな」
「5万なんて……。僕、そんな大金持ってないです……」
「親の財布からくすねりゃいーだろ!」
「……そんなあ」
周囲を行き交う大人達は、彼らを見て見ぬ振りをし通り過ぎる。私は一部始終を目撃し、その犯罪行為に我慢出来なくなった。
彼の髪を掴んでいた不良に近付き、後ろから不良の髪を思いっきり引っ張った。プチプチと数本の髪の毛が抜ける。
「……いてて……誰だ!髪引っ張ってんじゃねーぞ!」
『ばーか、あんたも同じことやってんだよ。彼も同じ痛みを感じてるんだ』
振り向いた不良の目には、何も映らない。
「へっ……?」
「おい、良路、何言ってんだよ?誰もお前の髪なんか引っ張ってねーし!お前がソイツの髪を引っ張ってんじゃん。お前、俺に喧嘩売ってんの?」
私は他の2人に近付き、両手で同じように髪を掴み思いっきり引っ張る。
「……うわあ、いてぇな!」
「ひえぇー……。な、なんかいるぞ……」
腰までずり落ちたズボンのベルトを、一斉に引き抜く。3人のズボンはストンと足下に落ち、トランクスやボクサーパンツ姿となり、股を押さえ「ひゃーひゃー」と、女みたいに悲鳴を上げた。
「うわぁー!コイツは化け物だー!」
『化け物はお前だ。お金は返してもらうよ』
私は不良の腕を掴み、持っていた2000円を引き抜く。
フワフワと空中を飛ぶ2枚のお札。
不良はそれを見つめ、顔面蒼白となりガタガタと震えた。
私はそのお札を、彼の掌の上に戻す。
彼は狐に摘ままれたように、目を見開いたまま固まっている。まるで瞬間冷凍されたマグロみたい。
不良はそそくさとズボンを穿き、一斉に走り出す。
「ぎゃあぁー!逃げろぉー!」
前方より数名の警官と1人の女子が小走りに駆け寄る。
「お巡りさん、恐喝したのはあの人達です!早く捕まえて!」
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