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――翌日から、夜になるとこっそり天界を抜け出し、下界に降りることが日課となった。
何処に行くのかって?
勿論、大好きな弘夢の家。
弘夢の部屋で、弘夢が眠るまで一緒に過ごす。
弘夢は学校や塾では猛勉強をするが、帰宅すると糸が切れた凧のように、テレビを見たりコミック本を読んだり、自室でフワフワと過ごす。
私がテレビのチャンネルを変えても気付かない。
「あれ……リモコンがない?」
お探し中のリモコンは、私が持っている。
『ここにあるよ』
テレビに視線を移したままの弘夢に、リモコンを渡す。
「サンキュー。えっ!?」
弘夢は周囲を見渡し、ガタガタと震え始めた。
「……な……なんか……いる……」
『いるよ。ココに激カワ天使が』
私の声は弘夢には聞こえない。
フーッと顔面に息を吹きかける。
「ひ……ひいぃ……」
弘夢はパタパタと顔を叩き、ブルブルと首を振る。
『弘夢は本当にヘタレだね。カワイイ』
「なにがいるんだよう。幽霊?ひゃあー……、ぼ、ぼ、僕は祟られている」
弘夢はリモコンを床に落とし、腰を抜かす寸前だ。
『失礼ね、私は幽霊じゃない。今は天使だよ。祟るだなんて心外だわ。私は弘夢に恋をしてるの』
私は床に落ちたリモコンを拾い、弘夢に再び手渡す。弘夢は渡されたリモコンを天井に放り投げる。
「わ……わわわあ……、お化け……」
弘夢は四つん這いのまま部屋から逃げ出す。私は弘夢の首根っこを背後からムンズと掴む。
「……ぐえっ!?」
まるで潰れた蛙みたい。
『あのさぁ、大抵のことは許すけど、レディに向かってお化けとは、あまりにも失礼だよ』
「……っ……な……何かが、ポロシャツの襟を掴んでますよう……。ひ、ひえぇ」
『だってさ、手を離すと蛙みたいにピョンピョン逃げちゃうでしょ?』
私に襟を掴まれ、手足を動かし藻掻いている弘夢。泳げない蛙みたいで、な、ん、か、カワイイ。
一度でいいから、弘夢とデートしてみたいな。
『私……。男子と付き合った事ないんだ』
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