プロローグ

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「おい、純!今日はやめとけ!」  SEAサーフィンスクールの社長に呼び止められ、俺は事務所内で一旦立ち止まる。今日の海は台風接近のため強風を伴い高波だ。 「大丈夫ですよ。これしきの波」 「何言ってるんだ!受講者に何かあったらどうするんだよ!責任を負うのはこっちなんだぞ」 「わかりました。今日は初心者講座なので、受講者にはサーフィンの基本と俺の模範テクを見せるだけにしますから。それなら講習をしてもいいでしょう。もう受講者は砂浜に集まってますしね」 「仕方ないな。波はかなり荒れてるぞ。いくらプロサーファーとはいえ、過信は禁物だ。十分注意しろよな!」 「はいはい。俺にしたら、これくらいの波が調度良いですから。受講者に俺の腕の見せ所です」  俺は事務所を出て、愛用のサーフボードを手に取った。  リーシュコードは昨日チェックしたから、問題はないだろう。  強風に髪を靡かせながら、サーフボードを脇に抱え颯爽と砂浜を歩く。  俺の名前は松田純(まつだじゅん)25歳。プロサーファーだ。  天候のせいか、今日の受講者は大学生が2名。当然ながらサーフィンは初心者だ。  初心者には、やはりこの強風と高波はキツイかもな。 社長の言うことも確かに一理ある。 「こんにちは。松田純です。初心者講座にようこそ。今日は第1回目だけど悪天候だから、波打ち際でサーフィンの基本とルールを教えるからね」 「はい」  2人は元気よく返事をした。俺は波打ち際でサーフィンの基本を説明する。 「ワンマンワンウェイブ、1本の波には1人しか乗ってはいけない。前乗りも禁止だよ。これは衝突事故を回避するためだからね。湘南はサーファーが多いから、状況にもよるけど、これは初心者の基本だ」  砂浜に置いたサーフボード。 俺はボードの上でパドリングの方法や、テイクオフする時の注意事項やコツを丁寧に教える。  いくら砂浜で教えても、実際は波の崩れ方により異なる。  頭で覚えるより、体で覚えることが一番だ。
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