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【里央side】
――私は……夢を見ていた。
あの日……
いつものように、家を出た純が……
まさか……
水難事故に遭うなんて……。
◇◇
―事故当日―
――突然自宅の電話が鳴った。
けたたましい電話の音に、妙な胸騒ぎがした。
電話に出たら、社長さんの慌てた声が鼓膜に響いた。
『奥さん!大変だ!純が水難事故にあった!直ぐに来て下さい!』
私は着の身着のままバッグだけを掴み、渚を連れて最寄り駅まで行き電車に飛び乗り、事故現場である湘南に向かった。
予想だにしない水難事故。
恐怖からパニックになり、体は震え頭は真っ白になる。
どうやって純の勤務先のSEAサーフィンスクールの事務所に辿り着いたのか、記憶も定かではない。
事務所前の浜辺では、ダイバーが純の捜索をしていた。
台風接近により波は予想以上に荒れていて、捜索は難航していた。
夕陽が海を赤く染める頃、純は……ようやく発見された。
救助された純を見ても、私はこの現実を受け入れることができなかった。
砂浜に横たわっている純……。
ダイバーが救命措置をし、純の脈拍や呼吸を確認するが純が瞼を開けることはなかった。
まるで時が止まったように……
私は暫く動けなかった。
全てが現実だと、思えなかったからだ。
渚が純の傍に行き、冷たくなった頬を撫でる。
「パパ?ねてるの?パパ、パパ……さむい?」
冷たくなった純を温めるかのように、渚は何度も何度も純の頬を撫でた。
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