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「パパ?おきて……」
状況が理解できず、一生懸命純に話しかける渚を見て、張り詰めていた糸がプツンと切れ涙が溢れた。
――これは……
現実なんだ……。
「純……純ーー……」
青白い顔……紫色の唇……。
冷たくなった体……。
純に縋り付き、形振り構わず号泣した。
「純ーー……!嘘でしょう!純ーー……!いやあああ……」
純の遺体を取り囲み、SEAサーフィンスクールの社長や社員が泣いている。その場に居合わせた人々の啜り泣きが聞こえた。
「社長である私が強く引き止めていたら……。こんなことにはならなかったのに……」
社長は泣きながら、私に深々と頭を下げた。
「奥さん……。本当に申し訳ありませんでした」
社長は自分を責め、頭を下げたまま号泣している。
サーフィンスクールの仲間達も、みんな泣いていた。
救急車の音が次第に近付く。
救急隊員が到着しても、私は純に縋り付いたまま離れることができなかった。
――何故……?
どうして……?
プロサーファーとして実力も実績も兼ね備えていた純が、どうしてこんなことになってしまったのか、私には信じられなかった。
目撃していた受講者の証言により、テイクオンしていた純の前方に他のサーファーが前乗りし、純は接触事故を避けるために逆方向にパドルしたが、高波に阻まれ海に落ち海流に流された。
サーフボードのリーシュコードが切れてしまったことも、事故の要因であることがわかった。
救急車に乗り、救急病院に搬送される間……。
夕陽に染まった海が、血を流して泣いているように思えた。
――もうこの海に……
くることはないだろう。
こんなにも辛く哀しい風景は……
2度と見たくない。
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