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「ボードを水面に押し込むようにテイクオフしたら、目線を下げず進行方向を見ること。今から俺が一通りの手本を見せるから、君たちは海岸で見てて。次回、時間を延長して今日の分も海で実技指導するからね」
「はい」
2人は瞳をキラキラさせ、俺を見つめている。
いつもより荒れている波。俺は海に入り前乗りにならないように周囲を確認しながらパドリングする。高波でもサーファーの数は多い。
「カッコイイな」
海岸で2人の声が聞こえた。
俺はリラックして波のピークに合わせる。
かなり荒れてるけど、俺にしたらいい波だ。
こんな波、どうってことはない。
サーフボードが波に押され走り出す。
俺はボードに手をつき、テイクオフする。
波の崩れ方も俺の予想通りだ。
上手く乗れるはずだった。
――その時、ゲット中にも拘わらず別のサーファーが前乗りしてきた。俺は進行方向とは逆にパドルして回避しようとしたが、予想以上の高波にのまれる。
危ない……。
そう思った時には、もう遅かった。
海中の渦に巻き込まれ、俺の体はどんどん沈んでいく……。
不運なことに、確認したはずのリーシュコードが切れた。
体から離れ、流されていくサーフボード。
――呼吸が苦しい……。
必死で藻掻くものの海面からどんどん引き離される。
海中から……屈折した太陽の光が見えた。
ブクブクと上がる泡が……
その光をも消し去る。
藻掻いても……
藻掻いても…………
俺の体は海流に捕らわれ、海の底に沈む。
俺の脳裏に……。
里央と渚の顔が浮かんだ。
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