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俺達を見て祐士が叫んだ。
「ほっ、ほっ、ほらっ。里央、幽霊だってさ!」
人の娘を好奇な眼差しで見るなんて、許せねーな!
マジでむかつく!
怒りにまかせ、畳に転がっていたおもちゃのゴムボールを手に取り、思いっきり祐士に向けて投げた。運動神経抜群の俺、今日もコントロールはバッチリだ。
ゴムボールは直線を描き、見事に祐士の顔面に命中した!ちくわはゴムボールを追い「ワンワン」とハシャイでいる。
「な、なんでぇ?」
祐士が白目を向き、両手を上げバタッと仰向けに倒れた。
まるで潰れた蛙だ。
『ざまーみろ!』
幽霊だって、やれば出来るんだ。
ゴムボールだって、投げれるんだからな。
集中したら、軽い物が掴めるんだ。
「大丈夫?祐士?」
里央が慌てて駆け寄る。
祐士の鼻は真っ赤になっている。
「な、なんでぇ?」
「渚ダメじゃない。人に向けてボールを投げないの!」
渚は里央に叱られ、キョトンとしている。
『ごめんな渚。パパが投げたのに、渚がママに叱られたな』
「いいよ、パパ。なぎさ、へいきだもんね」
渚はニコニコして、俺に抱き付いた。
里央は甲斐甲斐しく祐士の世話を焼き、冷たいおしぼりを差し出す。
「本当に大丈夫?祐士?」
「大丈夫だよ。里央ありがとう」
『たかがゴムボールだろ。大袈裟なんだよ。そんな奴、ほっとけよ!』
思わず怒鳴ったけど、俺の声は里央には聞こえない。
あの2人、お似合いなのかな。
俺はもう里央や渚を守ってやることは出来ないんだ。
渚はまだ3歳、これから成長していくにつれて父親の存在も必要だ。
里央が知らない男と付き合うくらいなら、まだヘタレな祐士の方がマシだけど。
俺が死んで、そんなに月日も経ってないのに。
祐士と家族同然の付き合いするなんて、どうかしてるよ。
3人は仲良く食事を済ませ、祐士は帰り支度をしながら家の中をぐるりと見渡した。
「ねっ、おちびちゃん。パパは今何処にいるの?」
「パパはあそこだよ」
渚は仏壇を指差した。
そこには俺の遺影が置かれている。
「だ、だよな……。だよな……。仏壇だよな」
安心したように小さな溜め息を吐くと、祐士は仏壇に手を合わせ、すごすごと帰った。
俺はその時仏壇の前に寝転がっていたから、渚の言ったことも満更嘘ではない。
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