【4】俺はここにいるよ。

2/8
111人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
 祐士が帰った後、里央が渚を呼んだ。 「ねぇ、渚。……パパはもう死んだのよ。もう、お家にはいないの。パパはお墓で眠ってるの。パパはお空のお星様になったのよ。ママの言ってることわかる?」 「パパ……おほしさまじゃないもん。パパ……いるよ」 「だからね……、パパは死んじゃったの」 「パパ……ここだよ」  渚は里央の手を取って、俺の横に座らせた。  里央は不思議な顔をし、周りを見渡す。 「本当に、この子……おかしくなったのかな」 『渚はおかしくなってねぇぞ。お前までそんなこと言うな』  俺は渚の目を見つめ、言い聞かせた。 『渚、パパはママと話がしたいんだ。でもママはパパの声が聞こえないし、パパが見えないんだよ。だから、これからパパが話すことを、ママに言ってくれないか』 「うん わかった!」  渚の元気な返事に、里央はビクンとした。 「えっ……?渚?どうしたの?」 「あのね、パパがママとおはなししたいって」 「……パパが?」  里央が一瞬黙った。里央の目は、見えない俺を捜している。 『里央、俺は今隣にいるよ』 「パパがママのとなりにいるって」 「えっ……?となり!?」  俺は驚いている里央の手を握った。  一瞬里央は自分の手に視線を落とした。 「パパがママとおててつないだの」 「……嘘!?」 『里央……ごめんな……』 「パパがごめんなって」 「渚……?パパが……本当にここにいるの?」 『うん、いるよ』 「うん、いるよ!」  俺は仏壇に置かれていた俺の結婚指輪をそっと摘んだ。2人のイニシャルが刻まれたプラチナのリングだ。結婚してから死ぬまで、一度も外したことはなかった。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!