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祐士が帰った後、里央が渚を呼んだ。
「ねぇ、渚。……パパはもう死んだのよ。もう、お家にはいないの。パパはお墓で眠ってるの。パパはお空のお星様になったのよ。ママの言ってることわかる?」
「パパ……おほしさまじゃないもん。パパ……いるよ」
「だからね……、パパは死んじゃったの」
「パパ……ここだよ」
渚は里央の手を取って、俺の横に座らせた。
里央は不思議な顔をし、周りを見渡す。
「本当に、この子……おかしくなったのかな」
『渚はおかしくなってねぇぞ。お前までそんなこと言うな』
俺は渚の目を見つめ、言い聞かせた。
『渚、パパはママと話がしたいんだ。でもママはパパの声が聞こえないし、パパが見えないんだよ。だから、これからパパが話すことを、ママに言ってくれないか』
「うん わかった!」
渚の元気な返事に、里央はビクンとした。
「えっ……?渚?どうしたの?」
「あのね、パパがママとおはなししたいって」
「……パパが?」
里央が一瞬黙った。里央の目は、見えない俺を捜している。
『里央、俺は今隣にいるよ』
「パパがママのとなりにいるって」
「えっ……?となり!?」
俺は驚いている里央の手を握った。
一瞬里央は自分の手に視線を落とした。
「パパがママとおててつないだの」
「……嘘!?」
『里央……ごめんな……』
「パパがごめんなって」
「渚……?パパが……本当にここにいるの?」
『うん、いるよ』
「うん、いるよ!」
俺は仏壇に置かれていた俺の結婚指輪をそっと摘んだ。2人のイニシャルが刻まれたプラチナのリングだ。結婚してから死ぬまで、一度も外したことはなかった。
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