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「あっ、そこにいるのね?おはよう純」
私には純の姿は見えなかったし、声も聞こえなかったけど、純のことを怖いとは一度も思わなかった。寧ろ、嬉しい気持ちの方が勝った。
姿が見えなくても、せめて声が聞けたなら……。
渚みたいに純と直接話しが出来たなら……。
他人からすれば、奇妙な話かもしれない。
恐怖に怯えてしまうほどの、怪奇現象かもしれない。
でも、私は……
本当に嬉しかったんだ。
私の声に渚が目を覚ました。
「パパ、ママ、おはよう」
「おはよう、渚」
『おはよう、渚』
「ねぇ渚、ママね、渚の言うことは全部本当だと信じてるけど、保育園でパパのことを話しちゃダメだよ」
「どうして?」
「どうしても。これはママと2人だけの秘密ね」
『いや、3人の秘密だろ?』
「パパが、さんにんのひみつだって」
「あっ、そうね。3人の秘密!」
私は渚を見て笑った。
渚もニタッと笑った。
3人で指切りげんまんをする。
純の姿は見えないけれど、幸せな朝だった。
私はいつも通りキッチンに立ち、朝食の支度を始めた。
「純、何がいい?和食?洋食?好きなもの作るよ」
『里央、俺の分は作んなくていいよ。俺は何も食えないんだから、これからは2人分でいいよ』
「パパが、パパのぶんつくんなくていいよ、だって」
「えっ?そうなの?」
「うん。なにもくえないから、だって」
「わかった。今日から作るのやめるね。パパがいるからもう寂しくないし」
2人分の食事は寂しくて、今までずっと純の食事も用意してきたが、結局食べてくれる人がいないことに、寂しさは軽減されるどころか増していた。
でも、今朝は寂しくない。
だって純が傍にいてくれるから。
姿は見えないけど、私にはあなたがわかる。
この世界に戻ってきてくれて、ありがとう。
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