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「ノア」
「はい」
ルシアがその名を呼ぶと、ずっと斜め後ろを歩いていた彼女の付き人──ノアがすぐに返事をする。
真っ黒な髪に、真っ黒な瞳。
ノアの容姿もまた、この国に住まう住民からすれば珍しいもので、彼らの好奇心を煽るのには十分だった。
「あの後ろの子.....」
「綺麗な顔してるけど.....」
「どこか別の国から来たのかしら.....」
その彼もまた、周囲の視線には目もくれず、ただ前を見据えて歩くだけであった。
どこか優雅ささえも感じるその歩き方は、更に人々の視線を惹き付けた。
「今日はこの用事が終わったら寄りたい場所があるんだが、大丈夫か?」
ルシアがチラリと後ろを歩くノアを見る。
ノアは優しく微笑み、すぐに答える。
「もちろん、大丈夫ですよ」
ノアは、ルシアがどこに行きたいのか分かっていた。
ふと、ノアの視界を遮るかのように緋色のもみじが宙を舞った。
ノアは何気なく空を見上げる。
そこには水のように澄みきった秋空が広がり、こちらを見つめているようだった。
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