飴の味

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小さいころ、僕はいつも飴をなめていた。とってもきれいな、宇宙のような飴。その飴をなめると、兄から受けていた暴力も、周りからの悲しい視線も、鏡に映った現実も、すべて忘れられた。甘い味、少しだけ香るバニラ。終わりがないような、深く透き通るような青。中に浮かぶ気泡や、細かな金粉。たった1粒の球体を、当時の僕は表現しきれなかった。 僕の兄は怖い人だった。オッドアイで変な髪色で、バケモノみたいだって言う理由で、事あるごとに僕を殴り、蹴り、時には熱湯をかけられた。ほとんどの使用人たちは、それを見ても何も言わなかった。僕の部屋でけがの手当てを最低限済ませ、おびえるように部屋を出ていく。 両親が生きていたら、この未来は変わったのだろうか。 僕が生まれて2日後、両親は帰らぬ人となった。なぜ死んだのか、僕にはまだ伝えられていない。僕はそれを知ろうともしない。だってきっと、両親も僕のことが嫌いだろうから。こんなやつ、生まなきゃよかった。そう思っているだろうから。 世の中の動きにはいつも金が関係していると、僕はいつも思う。僕が小さいころになめていた飴を作っていた会社は、僕が14の時に倒産している。13の時、僕が家を出て、一人暮らしをしなくちゃならないことになったのも、僕の家が金を持っていたから。17の時、兄が死んだのも、僕の家が金を持っていたから。 この世界で一番権力を持つのは、紙切れの束だ。あんな紙切れが世の中を動かし、憎しみや喜び、悲しみや苦しみを生み出している。世の中は怖いものだ。 僕はこれから、ここに夢を描いていこうと思う。両親が生きていて、兄が生きていて優しくて、みんなと暮らしていて、あの飴があって、あまり裕福過ぎない、貧乏過ぎない暮らし。恋人ができて、僕の目も髪も普通で、ちゃんとした物語。 以降、この物語は僕の夢でできている。どうかそれを頭の片隅において、この夢を読み進めてほしい。 星宮 明治。
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