第2話「ゆめのなかで」

1/7
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ

第2話「ゆめのなかで」

「瞬く月が覗く先、かつての寝屋で三度生まれるとき…」 石畳の路地裏を公園に向かって歩きながら、わきはさっきアーテルが言ったあの言葉を繰り返し繰り返し呟いていました。しかしどれだけ繰り返してみても、いったいぜんたいなんのことだか、さっぱりわかりませんでした。 やがて公園にたどり着きました。 木々はすっかり秋色に染まり、鮮やかな赤や黄でいっぱいでした。この辺りで一番広いその公園には、ピクニックをする人や木陰で読書を楽しむ人、そんな様子を熱心に描き写している絵描きなど、たくさんの人がいました。 わきはしばらく林の小道を散歩しました。かさかさと、落ち葉の絨毯が鳴らす心地よい音が聞こえます。それから公園を寝どこにしている猫たちとあいさつや情報交換をすませると、いつもの場所へ向かいました。そこは表通りに面した公園の入り口です。 わきはそばにある楓の木をするすると器用に登り、枝を伝って入り口の門柱の上に降りると静かに寝そべりました。石造りの門柱は、お日さまを浴びてほんのり暖かくなっていてとても気持ちいいのです。お日さまは今、わきの頭から尻尾の先までを優しく照らしています。 ここからは、ひっきりなしに行き交う馬車や人々、賑やかな商店の様子がよく見えました。奥の方からこちらに向かって真っ直ぐに表通りが延びてきて公園にぶつかると、丸い公園をぐるりと取り囲むように左右に分かれます。 道が分かれるその角、わきの正面に小さなレストランがありました。そう、あの女の子が昼に働くレストランです。 昼も夜もなく毎日毎日働き続けている女の子を、ときにはそっと離れて、ときには店の中に入ってまでしてわきはいつも見守っていました。 はじめこそ、店に行くたびに帰るように言われたわきでしたが、そのまま大人しく言うことを聞くような猫ではありません。 やがて女の子がその頑固さに根負けしてしまって、渋々、店に来ることを受け入れたのでした。 レストランのオーナーは無愛想で大柄な男ですが、見た目と違ってとてもいい人でした。 彼はわきをすっかり気に入り、わきが店へやってくると、朝に市場で買い付けた新鮮な魚を、ときにはそのまま、ときには焼いて出してくれました。 今、そのレストランでは一人の女の子が給仕に勤しんでいますが、それは飼い主の女の子ではありません。飼い主の女の子はここのところ、たまに出かけて行っては、夜遅くに帰ってくるようになりました。 わきは普段と変わらずなんでもない風を装っていましたが、内心は心配で仕方ありません。 そして今日も、女の子はいませんでした。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!