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そうこうしているうちに、愛海の運転する車は市民会館の駐車場に到着した。
ゆっくり運転していたにもかかわらず、約束の時間までまだ30分もある。
おそらく相手はここまでバスで来るはずだと考えた愛海は、駐車場で、通り沿いのバス停が見える位置に停車する。
車を停め、運転席からバス停を見ると、既に誰かが立っているのが見えた。
髪はバッサリと短くなっていたが、すらっとして背が高く、見覚えのある派手で大きなトートバッグを脇に抱えた人物が、車の中の愛海に気がつき、こちらを見つめる。
ドアを開け立ち上がる愛海。
それと同時に、その女性も、ゆっくりとこちらに向かって歩きはじめた。
あと20メートル。
あと10メートル。
…あと5メートル。
そしてついにその待ち合わせていた相手が、愛海の目の前に立った。
「おかえり」
愛海が笑顔で、でもゆっくりと噛みしめるように呟く。
「ただいま」
その相手も、笑顔で答える。
「私に会えない間、寂しかったんじゃないの?」
この一年、精神的にもタフになった愛海がからかう。
「ぜんぜんっ」
相手は鼻の頭を掻きながら、そう言って笑った。
「うそつき」
笑いながらそう言うと、愛海はその胸に飛び込み、今度は相手の耳元で囁いた。
「おかえり。彩香」
完
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