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「ところでさ、愛海ちゃん、今週末、土日のどっちかヒマ?」
「えっ?なんで?」
千里が、愛海を呼び止めた目的を思い出し、本題を切り出した。
「そろそろ桜が咲きそうだから、久しぶりに撮影会でもどうかな?ってね」
日に日に暖かさも増し、日中はコートも必要ないくらいになってきた。
テレビの天気予報で紹介される桜前線も徐々に北上し、そろそろこの辺りでも開花宣言が出そうになっているところだ。
「土日?トモくんはいいの?」
「ああ、彼?彼今シーズン最後のスノボで、泊まりがけでどっか行くんだって」
「えーっ、一緒に行かないの?」
「いいんだ。お互い趣味の時間は尊重してるから。
ね。この前行ったあの森林公園に行こうよ。トモの車の借りて、私が迎えに行くからさ」
(車かあ…。二人っきりだと、気まずいかな)
この前はまだ千里と原田が付き合う前だったので、借りる車もなく、二人でバスに乗って行ったのだが、今回は千里が運転して車で行くのだと聞き、愛海は動揺する。
「そうだね。ちょ、ちょっと返事は待ってね。今週末は、もしかしたら何か予定があったような気がするから。
確認してまた連絡するね」
予定はないことは知っていたが、千里と二人きりで、しかも逃げ場のない自動車で出かけるとなると、やっぱりまだ少し躊躇する。
心の整理がついたのかと聞かれれば、まだまだ怪しい。
再び千里の優しさに触れてしまったら、あの時の帰りのバスのように、千里の肩にもたれ掛かって寝たフリをするだけじゃ済まなくなりそうだった。
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