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今月に入ってその納期もひと段落したタイミングでもあり、また今週は労使で予め決められていた全社一斉のノー残業ウイークだったこともあり、表向きは残業はしないことになっている。 といっても、キリのいいところまで仕上げてしまおうとすると、どうしても時間が超過してしまい、このノー残業ウイーク、縫製部はまだ一日も定時ちょうどに帰れたことはなかった。 それもあっての、工場長の、“粋なサービス”だったのかもしれない。 縫製工場と一口に言っても、イバソーには縫製ラインだけで3種類の工程のライン、そのほかに裁断ライン、刺繍ライン等がある。 この日は、特段どのラインの工程に遅れもなかったので、今日こそは全ラインとも定時で終わろうと、工場長が午後3時の定例巡回で触れて回っていた。 一番偉い人にそう言われた直後から、早く終わらせようとする工員が続出し、目に見えてラインの流れが悪くなったのだが、そのラインの流れをチェックしている担当の主任も空気を読んで何も言わない。 こんな日にネチネチ文句を言っても、自分の評判を下げるだけだし、何より彼も定時で帰りたいのだ。 そして、定時のベルが鳴った。 愛海も、その瞬間、自分の前にある大型の縫製機を止め、ダッシュで更衣室に向かった。 愛海は高卒で入ってもう3年になる。     
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