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愛海は、早くから社内で頭角を現した。 6年目までの社員に義務付けられているQCサークル活動で、高卒3年目の愛海は、若干21歳で、所属するサークルのリーダーになっている。 いや、それ自体は、無理矢理押し付けられたという方が正確かもしれない。 その能力を知る者から推薦された訳ではなく、ましてや立候補したわけでもない。 小動物系で可愛らしくも、真面目でおっとりしている彼女の「ノー」と言えない性格に付け込まれ、本来リーダーとなるべき年次の先輩社員から押し付けられたのが真相だ。 だが真面目な彼女は、リーダーになった以上は、その責任を全うしたいと考えた。 そしてその天性の才能と、真面目さと几帳面さを発揮し、リーダーシップをとって労務改善の提案をまとめ上げ、彼女のサークルは今年の社長賞を受賞した。 彼女の天性の才能とは、『物事を俯瞰してみる』こと。 他の同世代の子にはない、彼女の特徴だ。 主観的にものを見ることの多い若い工員に比べ、どうやら彼女の視覚は、物事を俯瞰的に捉えることに長けているらしく、工場ラインの動線や、リードタイムのアラが、手に取るように“見えて”いるのだ。 どこでこの能力を身につけたのか… 彼女の生まれ育った環境に、そのきっかけがあるのかもしれない。
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