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彼女の実家は町の定食屋で、彼女は3人きょうだいの長女だ。 年の6つ離れた弟と7つ離れた妹がいる。 そんな環境で育った愛海は、たくさんの皿と水の入ったコップを載せたお盆を一人で持てるようになった小学3年生の頃から、見よう見まねで店を手伝い始めた。 父が大将、母が女将さんを務めるその小さな店は駅前の繁華街のはずれにあったが、昼時や夕飯時はそれなりに繁盛していた。 昼間は近所の主婦がパートとして働いてくれていたが、夜はそれもままならず、また母は幼子の面倒を見なければならないため、自然と愛海が店に出るようになっていた。 お店には様々な客が来る。 愛海がお店に出る夜は、仕事帰りのサラリーマンが客層の中心だが、駅前とあって、電車の時間調整でふらっと一杯を目的に立ち寄る客も多い。 狭い店のあちこちから無秩序に発せられるオーダーや、出来上がった料理の配膳、お冷のおかわり、お会計等々…。 子供の愛海が直接お金を扱うことは流石になかったが、自然と店内を見渡し、どの席の誰が今どんな状態か、料理を載せたお盆をバランスよく持ち歩きながら、周りを見て瞬時に状況を把握するクセがついていた。
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