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『ああ、あそこのテーブル、もうすぐ食べ終わりそうだな』 『こっちのお客さん、水を飲むペースが早いから、早めに継ぎ足すようにしよう』 『あのテーブルの配膳を下げて片付けたら、次はあそこオーダー取って、そしたらそろそろあっちのお客さんの料理がでてくるころだから…』 絶えず周りに目を配り、狭い店内を効率よく客を捌きながら、瞬時に最適な手順や段取りを判断する。 格式や高級さを謳った店ではなく、味とスピードが求められる小さな定食屋。 そこでの仕事を続けるうちに、愛海は、自然とその能力を磨いていたのだ。 そんな愛海だからこそ、今働いているイバソーのラインでも、改善すべきポイントはいくつも目についた。 『縫い付けるパーツを補充するための工程に無駄が多い』 『今使わないパーツまでドンドン川下の方に送られてくると保管スペースが手狭になって、今使うべきパーツの保管場所がなくなり、その入れ替え作業に時間がかかってしまう』 等々。 若干3年目の高卒社員がリーダーを務めるQCサークルの改善提案は、『モノの置き場を変えることで動線の無駄を排除し、リードタイムを改善する』内容で、他のサークルの『整理整頓』程度の提案と比べ、群を抜いていた。 その余りの内容の高度さに、提案作成にベテラン社員が手を貸したのではないかとの疑いが持たれるほどだったが、疑いは晴れて無事その年の社長賞を受賞。 社内報で紹介され、一躍有名人になったのだった。
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