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「浅見花鳥もこの町の過疎化対策の一環で引っ越して来た。町政が積極的に補助金をアピールをしているから。その際、しきたりの事は基本的に他言無用ルールで、外部の人には知らされない」
そうか。だから皆が僕に隠そうとして不自然な態度になっていた訳か。
「……こんな事があるって分かったら住む訳無いよ!それこそ理不尽じゃないか!それに僕が体験したこの出来事は何?危うく死ぬところだったよ……」
無意識に布団を握り締める手が強くなる。切ったかもしれない。微かに濡れた感覚がするのは血だろうか。
「いずれ分かる。言ったでしょ、他言無用ルールだと。この町に一生住むのなら"範囲内"かもしれないけど」
「……意味が分からない」
「私が言わなくても、その内知る事になる。今回の事で貴方と同じ覚悟を持った人間が側にいるから」
僕と同じ覚悟?僕はこんな危険な町に一生住む気など無い。仮にそれが運命なら、変えてみせる。
「これはそういう"儀式"――。貴方が巻き込まれたのは必然。……ごめんなさい。許されない事だけど、私には謝る事しか出来ない」
天野は僕に向かって深々と頭を下げた。
胸に残るしこりはあるが、こうされると許すしかない。僕は素直に謝られると弱いのだ。
ここで僕はある疑問が頭に浮かんだ。そもそも過疎化対策で移住者を集めているのに、この現象があったら死ぬ可能性が高い。結局増やしたいのか減らしたいのか……。
町の暗黙のルールでニュースにならないとしても、少なくともこの町を出て行く人はいる訳で。何せこの町には中学校以上の教育機関は無いのだから、必然的に進学すれば外に出る事になる。
事情を知っている町人が話さないとは限らないじゃないか。
「町の人は……この町を出て行って関係無くなっても他言無用な訳?」
「そう。話したくても話せないと言った方がより正確」
「"話せない"って?」
秘密を口にしたら死が待っている――なんてご都合主義のファンタジー小説じゃあるまいし。
「それは――」
「ごめんごめん!混んでて遅くなっちゃた!」
控え目な引き戸の音と共にスミスミが戻って来た。
手には無地のビニール袋。部屋の蛍光灯に透けて見える影は雑誌以外にも複数見えた。お菓子か何かだろうか?
「二人ともどうしたの?真剣な顔して見つめ合って……」
小首を傾げるスミスミの言葉に、僕は慌てて視線を逸した。これではバレバレである。
天野はと言うと先程までの緊張感はすっかり消え、いつもの人形に戻っていた。
僕を見る目が「ここまでね」と言いたげな瞳の色をしている。
「……鳳君、大丈夫?何だかさっきより顔色悪い様な……」
スミスミが僕の顔を覗く。
「大丈夫。それよりごめん、買いに行かせちゃって……いくらだった?」
「何言ってるの。そういうのは無し、だよ」
スミスミはにこりと笑ってサイドテーブルにお菓子やら雑誌やらを置いた。
スミスミの好意はありがたいが、こういう時に限って邪魔が入るのは辛い。御鳥様はそんなに秘密の儀式を知られたくないのか。
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