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同じ場所で同じコゲラの声を聞いて……。何故僕だけが取り込まれて小鳥遊は無事だったのか。僕達の運命を分けた要因は一体――?
「頑張ってみたけど、間に合わなかった。ごめんなさい」
小さく頭を下げた。
そして小鳥遊は喋り疲れたのか、目を伏せて深呼吸をした。僕は何となく窓の外を見遣ると、黄昏は闇に飲み込まれ始めていた。
――もうすぐ、夜の帳が下りる。
あの日もこんな空をしていた。そしてまさか生死を彷徨うとは考えもしなかった。
あんなに歯を食いしばって耐えた痛みも、今はほとんど消えていた。なんだかまるで、あんなに脳内を紅に染めた戦慄の鬼ごっこが、遠い一昔前の出来事に感じた。
「小鳥遊」
「……何?」
小鳥遊は目を伏せたまま応答した。
「僕が夕霧町で聞いたもう一つの音が、今も耳から離れないんだ」
「……」
「優しい陽だまりの匂いと共に、透明感溢れる綺麗な鈴の音……それがあの時の僕の道標だった」
小鳥遊は黙って聞いている。
「それが、前に会った事が気がして――いや、ごめん。何でも無い」
僕自身も、追い付かない思考を整理する為に、脳をフル回転させていたせいか酷く疲れていた。
いくら容態が良くなったとは言え、体力が完全に戻った訳では無い。頭の中に睡魔の足音が迫っていた。重い頭と瞼に逆らって、何とか意識を保っている状態だった。
「――空間を跨ぐ行為……呼ぶ声が鳴っている間は動いてはいけないの」
ややあって小鳥遊は静かに、厳かに呟いた。そしてゆっくり長い睫毛を震わせてゆっくり目を開いた。
眠気を振り払い、僕は改めて小鳥遊に視線を合わせると、意図せず見つめ合う形になった。
まるで身分違いの想い人同士が、月の無い深夜に忍んで逢瀬を楽しむかの様な。脳がそう意識した途端に、何故か僕は気恥ずかしくなって頭を軽く振った。
「動いてはいけないって……そのままの意味だよね?」
頬の熱さを誤魔化す様に僕は話を続けた。妙に鼓動が速いのは気のせいだろう。
「そのまま。――あの時鳳君、辻へ足を踏み入れたでしょ?四つ辻は古来より異界……又は黄泉へ繋がりやすい所と言われているけどその通り。霧の中へ足を踏み入れる行為が、裏世界――夕霧町に転送されてしまう鍵なの」
辻が異界に繋がっている――。これは御鳥様から逃げている最中に僕も考えた事だが、まさか本当にそんな御伽話があるとは。小学生の頃にファンタジー小説を大量に読み漁っていた甲斐があったな。
「辻じゃなければ免れた?」
小鳥遊は小さく首を振った。
「多分、駄目。コゲラが訓んでいる間は、どんな行動も死への扉に繋がっている」
「……あの時は何しても駄目だったんだね」
小鳥遊が膝の上に置いていた手を握り締めた。
「だから、忠告のつもりだったんだけど、ね」
小鳥遊の言葉に、あの時の記憶を手繰り寄せてみる。
そう言われれば、妙に足止めさせる様な事を言っていた気が……そう、メデューサだ。見つめられたら石になると、僕に実演させようとしていた。そうか……。
「助けてくれようとしたんだね」
シンプルな言葉程よく伝わる。誤解の余地が無いからこそ、恥ずかしさも増す。
「別に。言ったでしょ。クラスメイトなんだからって」
小鳥遊が少し顔を伏せた。
濡鴉色の前髪の隙間から見える白い顔が、少し赤らんでいるのを気のせいではないと思いたい。
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