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「町の人なら皆知ってる事、だよね。もしかして――浅見さんは、外部の人だから対処法を知らずに身動きしてしまったという訳?」
それは外部から移住してきた人間を意図的に殺しているという訳だが。朝霧町の過疎化対策とは、まさか"贄を集める"為?
「……そういう事。他言無用、だからね。ちなみに町の人は鶏肉を食べないって知ってる?」
「あぁ、うん。天野さん達から聞いた。今の話を聞いて分かったよ。この町の守り神様が鳥の神様だから……だよね?」
小鳥遊は頷いた。
神として奉っている鳥を食す行為が禁じられる事は容易に理解できた。誰も悪くない理不尽な死だけはどうしても理解できなかったが。
「それにしても、他言無用なのにどうして僕に話したの?初めて会った時から仄めかす様な事言ってたし……」
"気をつけて"の言葉を何度小鳥遊から聞いただろう。最初から僕に警告をする様な言動を彼女は繰り返していた。……僕と同じ境遇であった浅見の時は、同様に警告していたのだろうか?
小鳥遊は徐に椅子から立ち上がると、この部屋唯一の窓の方へ向かった。すっかり闇に染まった空を見つめて半開きのガラスをそっと撫でた。
室内の光が反射して、冷たい窓に映るベッド上の僕は小鳥遊を見つめていた。微動だにせず外を見遣る小鳥遊の表情は曇っている様に思えた。
「……人が死ぬ事は悲しい事だから、ね」
これまで聞いた事の無い沈んだ語気の弱さに、僕は右手を強く握り締めた。
『……愛する人の葬式なんて、出たく無いよなぁ』
『仕方が無い事だったのよ。運が悪かったのね……』
『――大丈夫、貴方は悪くないからね』
脳裏を過る重く暗い声。霞んだ視界の中に、もう笑う事の無い大切な人の顔が飾られていた。
『だって、まだ子供だから……仕方が無いわね』
ドクン――。
心臓が疼いた。心が燻っている。
瞬きをする度に……一瞬視界が闇に包まれる度に、景色がオレンジに激しく揺らめく。それは開けていた窓からの風に煽られ、どんどん勢いを増していく。
やがてそれは、フローリングに広がる鮮血を焼いた。
『――!』
もう、届かない叫びが耳にこびりついた。
心臓が痛い。気管が焼ける様に痛い。駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ。――思い出しては駄目だ。
じわりと額に汗が滲む。
心に浮かんだ悔恨の念と罪が密度を増し、僕の思考を狂わせようとする。
それを必死で追い払い、嫌な方向に覚醒していく頭をリセットする。
「はっ……」
小鳥遊に聞こえない様に、上がる息を抑える。
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