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*May 16th
「本当に大丈夫か?」
十三日振りに戻った自宅は、相変わらず生活感がまるで無かった。
僕がいない間、家事や料理はどうしているだろうと心配したが、どうやら元気にやっていたらしい。……ゴミ箱はカップラーメンだらけだったが。
「大丈夫だよ。もう痛みも引いたし」
「無理するなよ?家事は俺も手伝うからさ」
家事をほとんどしない父さんが、ここまで言ってくれるなんて。多大な心配をお掛けしてごめんなさい。
ただ、天葬の事を隠しているので、僕が怪我をした本当の理由を父さんは知らない。
唯一の家族に嘘をつく事は気が引けたが、他言無用ルールが敷かれているなら、話すのは辞めておいた方が良いだろう。
――父さんを巻き込みたくない。
その想いが強かった。
「料理くらいはするよ。それに……その歳で不摂生は良くないよ」
僕がちらりとゴミ箱を見た事に気づいたらしく、父さんは罰が悪そうに頭を掻いた。
「あー……その方が良いな。それより、気をつけろよ?学校の裏山から滑り落ちるなんて」
救急車を呼んでくれた小鳥遊も嘘に協力してくれていた。だから父さんには、小鳥遊と学校の裏山で遊んでいる時に怪我をした事になっている。
「うん。それより、仕事はどう?」
僕はガサガサとビニール袋を漁る。
「ん?あぁ、順調に進んでるよ」
病院からの帰り、父さんが車で迎えに来てくれたのだ。その道中でスーパーに寄ってもらい、食品を買い込んだ。
この足じゃ、長時間は歩けないから。
「まぁ、プロジェクトが軌道に乗れば後は成るようになるさ。それより……」
二人暮らしにしては大き過ぎる冷蔵庫に、食品を丁寧に並べていると、背後からプシュッと軽快な音が聞こえた。
「……もう飲むの?」
「もうって……お前、もう夜六時だぞ?」
もうそんな時間だったか。
壁掛け時計を見ると、もうすぐ六時になろうという所まで針が進んでいた。
夜の帳が下りる。
この町で日が暮れる事はとても重要なのだ。でもそのおかげで、今まで意識しなかった空の色が、こんなにも綺麗な芸術である事を知った。
「で、小鳥遊さんだっけ?彼女えらい美人だな。ガールフレンドか?」
「なっ……!」
何を言うんだこのオヤジは。
不敵な笑みを浮かべて、父さんは椅子に座った。黒いダイニングテーブルの上に飾られた花は、日向からもらった花束のチューリップだ。
まだ生きている分を花瓶(これも道中で購入した)に移したのだが、父さんは花の種類が変わろうが気にもしない。
「なぁ、もしそうなら父さんは嬉しいぞ」
「そ、そんなんじゃ無いよ!そもそも会って間も無いんだよ?」
きっと今の僕は、真っ赤なチューリップと同じ顔色をしているのだろう。
「照れんなよ。お前だってもう思春期なんだ。そういう事の一つや二つ、あっても不思議は無いし隠す事でも無いだろう」
ゴクリと喉を鳴らしてビールを飲んだ。
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